還ってきた端州駅は以前に高六と別れた所
2016.11.25
旧館分江口
凄然望落暉
相逢伝旅食
臨別換征衣
昔記山川是
今傷人代非
往来皆此路
生死不同帰
六六七年生まれの張説(ちょうえつ)の「還(かえ)ってきた端州駅(たんしゅうえき)は以前に高六(こうろく)と別れた所」。端州駅は広東省にある宿場。高六は高戩(こうせん)のこと。
■読みと解釈
旧館分江口
旧館は分江の口(ほとり)
[元の宿屋は川が二つに分かれている辺りにあり]
凄然望落暉
凄然(せいぜん)として落暉を望む
[その宿屋で沈む夕日をもの寂しく眺める]
相逢伝旅食
相い逢いしは旅食(りょしょく)を伝え
[出会った時は旅の飯を分けて食べ]
臨別換征衣
別るるに臨みしは征衣を換(か)えり
[別れる羽目になった時は旅の衣を交換した]
昔記山川是
昔に記せる山川は是(ぜ)なるも
[昔に記憶している山や川は変わらぬが]
今傷人代非
今に傷むは人代(じんだい)の非なるを
[今に傷心している人の世は変わっている]
往来皆此路
往来するは皆な此の路(みち)なるに
[行きも帰りも誰もこの道を通るのに]
生死不同帰
生死は帰(き)を同じくせず
[生きると死ぬとは共に帰することは適わぬ]
■注目点
高六に対する作者の思いに注目。
作者が高六と出会ったのは端州の宿屋。端州は香港地方で、当時は不便不自由な地。宿屋は旅人が利用。その宿屋に何年ぶりかに泊まった作者は、西に沈む夕日をもの寂しく眺めつつ、あの頃を追憶する。
追憶1。宿屋は今なお健在。追憶2。旅の飯を分けて食べた。追憶3。別れの記念に衣を交換した。追憶4。山や川は昔のまま。追憶5。人の世は昔のままではない。追憶6。人は皆な同じ道を通る。追憶7。生と死は同じ道を通らない。
自然は変わらぬが、人事は変わる。作者と高六とは深く繋がっていたが、今や高六は死に、作者は生きている。この無常。作者の思いはここ。
《PN・帰鳥》