玉関にて長安の李主簿に寄す
2019.06.07
東去長安万里余
故人那惜一行書
玉関西望腸堪断
況復明朝是歳除
七一五年生まれの岑参(しんじん)の「玉関(ぎょくかん)にて長安の李主簿(りしゅぼ)に寄す」。玉関は西域と内地の境界に設けた関所。李は姓。名は不明。主簿は文書係。
■読みと解釈
東去長安万里余
東のかた長安を去ること万里余(ばんりよ)なるも
[長安から西の方角へ一万里余りもやって来たが]
故人那惜一行書
故人は那(なん)ぞ一行(いちぎょう)の書を惜しむや
[昔なじみは一行の文字をなぜ惜しみよこしてくれぬ]
玉関西望腸堪断
玉関にて西のかた望めば腸の断(た)つるを堪(た)えたり
[玉門関から西を眺めると腸が千切れるのを我慢した]
況復明朝是歳除
況(いわ)んや復(ま)た明朝は是(こ)れ歳除(さいじょ)なるをや
[ましてや明日の朝は大晦日だからなおさら我慢せねば]
■注目点
岑参の思いに注目。
長安を去って西の方角へ。作者岑参は玉門関まで来る。そこから首都長安を思う。長安には李がいる。李とは仕事仲間。岑参が西の方角へ行ったのを李は承知している。西がどんな所かも承知している筈。なのに一行の文字も送って来ない。岑参は李を責める。
責める理由は二つ。一つは今から行く玉門関は更に西。人の住む所ではない。断腸の思い。一つは明日は大晦日。一年の終わり。人生の終わり。自分の人生には新年はない。李を責める岑参。
《PN・帰鳥》