嘉陵江近くの宿に泊まった
2015.09.11
離思茫茫正値秋
毎因風景卻生愁
今宵難作刀州夢
月色江声共一楼
八五〇年頃の雍陶(ようとう)の「嘉陵江(かりょうこう)近くの宿に泊まった」時の詩。嘉陵は四川省と陝西省の境界付近の地。
■読みと解釈
離思茫茫正値秋
離思は茫茫(ぼうぼう)とし正(まさ)に秋に値(あ)い
[古里を離れた思いは果てしなく遠くいま秋まっさい中]
毎因風景卻生愁
風景に因(よ)る毎(ごと)に卻(かえっ)て愁いを生ず
[風景に出会うたびに喜びではなく逆に愁いが芽生える]
今宵難作刀州夢
今宵は刀州(とうしゅう)の夢を作(な)し難(がた)く
[今夜は古里の刀州の夢を見ることはできず]
月色江声共一楼
月色も江声も一楼(いちろう)と共にす
[月の光も嘉陵江の水の音もこの一軒家同様愁いが芽生える]
■注目点
古里の夢を見ることができぬ因に注目。
その一つ。古里を遠く離れていること。その一つ。秋まっさい中。その一つ。風景。その一つ。月の光。その一つ。嘉陵江の水の音。その一つ。宿の一軒家。
これら一因一因が古里の夢を見ることができぬ大因となっている。
秋は悲秋、秋思、秋懐と言い、愁いが芽生える季節。
風景は絶景、佳景も、孤景、殺風景もあるが、ここは殺風景。
月の色、水の音も様々あるが、ここは愁いを芽生えさせる色や音。
雍陶の泊まる一軒家は古里の夢を見ることはできぬのです。
《PN・帰鳥》