前渓の歌
2016.02.05
黄葛生爛漫
誰能断葛根
寧断嬌児乳
不断郎殷勤
三五〇年頃の沈玩(しんがん)の「前渓の歌」。前渓は地名。
■読みと解釈
黄葛生爛漫
黄葛(こうかつ)の生ずるは爛漫(らんまん)たり
[黄色い葛が光り輝き生えており]
誰能断葛根
誰か能(よ)く葛(くず)の根を断たん
[誰が葛の根を断ち切ることができましょう]
寧断嬌児乳
寧(むし)ろ嬌児(きょうじ)の乳を断つとも
[愛する子へ乳をやることは断ち切れても]
不断郎殷勤
郎の殷勤(いんぎん)を断たず
[貴男の真心を断ち切ることはできません]
■注目点
切ない女心に注目。
黄色の葛。黄色は大地の色、天子の色。葛は薬用にも、食用にもなるつる草。つる草は物にからみつく習性がある。その根っこを断ち切る。それは不可能なこと。どんな人間だって不可能。葛はしっかりと大地に根を張っている。葛の強さを言う。
嬌児への乳。お腹を痛めて産んだ愛するわが子。そのわが子へ乳を飲ませる。それを断ち切ることは可能。乳を断ち切られた子は、死を待つしかない。だが貴男の真心を断ち切ることは不可能。わが子より、貴男の真心。恋慕の強さを言う。
葛の話と女の話。どうつながる? 葛の根も、貴男の真心も、断ち切ることは不可能。葛の根は女心を言う準備。葛の根の強さを借りて、女心の強さを言う。切ない女心!
《PN・帰鳥》