山口県のフリーペーパー「地域情報新聞 ほっぷ」WEB版

お問い合わせはこちら

楼に登り王卿に寄す

2019.09.27

踏閣攀林恨不同

楚雲滄海思無窮

数家砧杵秋山下

一郡荊榛寒雨中

 

七三七年生まれの韋応物(いおうぶつ)の「楼(ろう)に登り王卿(おうけい)に寄す」。楼は見晴らし台。

 

■読みと解釈

踏閣攀林恨不同

閣(かく)を踏み林に攀(よ)ずるに同じからざるを恨み

[見晴らし台の階段を踏んで登ったり木々を捕まえて登ったりするとき君と一緒でないのが残念で]

 

楚雲滄海思無窮

楚雲(そうん)と滄海(そうかい)は思いは窮まり無し

[君の居る雲のかかる楚と私の居る青海原とは遠く隔たり君への思いは限りない]

 

数家砧杵秋山下

数家の砧(きぬた)と杵(つち)は秋の山の下(もと)

[見晴らし台から下を見ると数軒の家々では秋の山の麓で槌で石を打ち冬着の準備]

 

一郡荊榛寒雨中

一郡の荊榛(けいしん)は寒き雨の中

[村全体の荊(いばら)や榛(やぶ)の雑木林が寒々とした雨の中]

 

 

■注目点

景と情の一致に注目。作者は東の青海原にある見晴らし台に登り、西の楚にいる王卿に思いを寄せる。二人一緒に登れぬ作者は自分を恨み責める。「思い窮まり無し」―思いは止まない、果てがない、続く、無限の思い。

作者は見晴らし台の上から下を見る。眼を凝らし見つめると、音がする。冬に備えて冬着の準備の砧と杵の音。音だけではない。村全体は雨雨雨。そして荊や榛の雑木林。常緑樹ではない。もの寂しい木々。雨の中の雑木林。

砧杵の音、寒雨の音、季節の秋の山、雑木林の荊榛。これらの景は「思い窮まり無し」の情を盛り上げる。景と情の一致。見事である。

 

《PN・帰鳥》