山口県のフリーペーパー「地域情報新聞 ほっぷ」WEB版

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野の望め

2016.09.30

東皐薄暮望

徙倚欲何依

樹樹皆秋色

山山惟落暉

牧人駆犢返

獵馬帯禽帰

相顧無相識

長歌懐采蕨

 

五九〇年生まれの王績(おうせき)の「野の望(なが)め」。

 

■読みと解釈

東皐薄暮望

東の皐(おか)にて薄暮に望(なが)むれば

[夕暮れに東の丘で辺りを眺めると]

 

徙倚欲何依

徙倚(しい)として何(いず)くにか依らんと欲す

[当てもなくぶらぶらし落ち着く所は何処にもない]

 

樹樹皆秋色

樹樹は皆な秋の色

[樹樹はすっかり秋の色となり]

 

山山惟落暉

山山は惟(た)だ落つる暉(ひかり)

[山山はすっかり沈む夕日となる]

 

牧人駆犢返

牧人は犢(こうし)を駆(か)りて返り

[牛飼い人は仔牛を追って返り]

 

獵馬帯禽帰

獵馬(りょうば)は禽(きん)を帯びて帰る

[狩人の馬は鳥獣を提げて帰る]

 

相顧無相識

相い顧みるも相い識(し)る無く

[振り向いても顔見知りはなく]

 

長歌懐采蕨

長歌して采蕨(さいび)を懐(おも)う

[声を長くして歌い采蕨の人を懐かしむ]

 

 

■注目点

野を眺め何を思ったかに注目。

季節は秋。時刻は薄暮。場所は東の丘。

夕暮れ時に東の丘に昇る。東の丘は太陽が昇る丘だが、今は夕日が西の空に沈む時。

樹樹は一斉に秋の色。紅葉。山山は一斉に落ちる光。夕日。

こんな色彩を眺めつつ、作者はわが身を落ち着ける術が判らず、侘しさに堪えかねる。作者は今、どんな境遇なのだろうか。

辺りを眺めていると、牛飼いや狩人が目に入る。牛飼いといい、狩人といい、名誉や財産を求めぬ、その日暮らしの連中。その連中を振り向いても、顔見知りは一人もいない。

顔見知りは采蕨の人。征伐で天下を取った君王に仕えるを恥じ、山に籠もり蕨を采って食べ、餓死した二人の兄弟。この兄弟を懐かしみ、歌を歌ったのです。

作者の境遇。身の置き所を嘆いている。誇り高い作者。

 

《PN・帰鳥》