山口県のフリーペーパー「地域情報新聞 ほっぷ」WEB版

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薜大が安陸に赴くのを見送る

2018.11.16

津頭雲雨暗湘山

遷客離憂楚地顔

遥送扁舟安陸郡

天辺何処穆陵関

 

六九〇年頃生まれの王昌齢(おうしょうれい)の「薜大(せつだい)が安陸(あんりく)に赴くのを見送る」。薜大の経歴は不明。安陸は武漢の西北。

 

■読みと解釈

津頭雲雨暗湘山

津頭(しんとう)の雲雨は湘山(しょうざん)を暗くし

[渡し場近くの雲や雨は湘山を暗く隠し]

 

遷客離憂楚地顔

遷客(せんかく)の離憂(りゆう)は楚(そ)の地の顔なり

[左遷の身の我は憂いに遭い楚の屈原(くつげん)と同じ表情]

 

遥送扁舟安陸郡

遥かに扁舟(へんしゅう)を安陸郡に送るに

[小舟に乗り安陸へ赴く薜大を遥か見送るに]

 

天辺何処穆陵関

天辺(てんぺん)何れの処か穆陵関(ぼくりょうかん)ならん

[手前の穆陵関は天の果ての何処にも見えぬ]

 

 

■注目点

安陸へ赴く薜大を見送る作者の思いに注目。

見送る場所は湘山近くの渡し場。湘山と安陸の距離は約二五〇km。

見送る作者は左遷の身。左遷地は湘山。湘山は戦国時代の楚の国。楚の国には屈原がいた。楚王の一族の屈原は、有能な才を仲間に妬まれ、湘山に左遷される。

作者は左遷された昔の屈原を自分と重ね、憂いに沈む。

小舟に乗って遥か彼方の安陸へ赴く薜大。安陸へ赴くのはなぜ。左遷。それとも栄転。判らぬが左遷では?

安陸の手前にある穆陵が見えない。穆陵より遠くの安陸は勿論見えない。寂しく辛くやり切れぬ思いの作者。

 

《PN・帰鳥》