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第145回

2013.06.07

毛利家絶対な基本形半5_cs6 写真は、印籠(いんろう)です。テレビの時代劇などでは、この中から薬を取り出したりする場面がよく見られますが、本来はその名のごとく、印章を収納するための入れ物でした。

 

この印籠は、残念ながら、腰にぶら下げるための紐と根付(ねつけ)が失われています。一方本体は、四段に分かれて、小さな物を収納できるようになっています。四つの身と、蓋を順番に組み合わせると、一つの絵柄が完成するようにデザインされています。

 

印籠には色々な絵が描かれ、作り手や持ち主の趣向が色濃く反映されるといいます。この印籠には、海に浮かぶ島と、海上を飛ぶ千鳥(ちどり)が描かれています。群れて飛ぶ鳥のことを千鳥といいますが、この印籠では、海に点在する島と、それをめぐるように飛ぶ千鳥が、ちょうど「S」の字を描くように描かれ、なにやら一つの物語を成しているかのようです。

 

この印籠は、毛利輝元(てるもと)の遺品として、眼鏡や鏡、筆や硯・硯箱などの文房具や印章とともに保管されています。眼鏡は老眼鏡ですし、筆や硯箱も使い込んだ形跡が見られますから、おそらく晩年の輝元が愛用した物なのでしょう。

 

輝元は、当時の人にはめずらしく、生まれてから死ぬまでの足跡がよくわかる人物です。父の隆元は幼名すらわかっていませんが、輝元は、幼少期の父母による子育ての様子や、初陣の様子、父の死後、家督を継いでからのさまざまな活動など、豊富に残された古文書から、ある程度のことがわかるのです。さすがは戦国大名の御曹司といったところでしょうか。

 

その輝元といえど、趣味や趣向などについては、よくわかっていません。この印籠は、晩年の輝元の好みを知る、数少ない貴重な資料だといえます。歴史の大局的な動向に、個人の趣向や性格が与える影響は微々たるものです。しかし、政策の進め方や作戦の実施などには、為政者の性格が色濃く反映されます。それが歴史の流れにどう影響するのか、興味深いところです。