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第143回

2013.05.24

nt毛利家1128鯉図この絵、何を描いたものかおわかりでしょうか。この絵は、まさに滝を昇っている鯉を描いたものです。ほとばしる激流をものともせず、一直線に滝を昇る鯉の姿を描いています。何だか変な絵だなという印象は、現実にはこの絵の鯉のように、ロケットが上昇する如く一直線に滝を昇る鯉はいないからでしょう。

 

この絵は、江戸後期に関西で活躍した写生画の大家円山応挙(まるやまおうきょ)が描いたものです。この絵の左右には、水面近くを回遊する鯉が描かれ、三幅で滝を昇る鯉を描いています。現在もこの構図の鯉の絵はいくつか残されているので、応挙得意の画題だったようです。

 

身びいきなのかも知れませんが、毛利博物館所蔵のものは、応挙筆の、現存する同じ構図の鯉の絵のうちでも、最も保存状態がよく、応挙自身も岩や水面の描き方に、特に力を入れて描いているように見えます。

 

絵の右上には、公家の伏原宣条(ふせはらのぶえだ)が賛をしたためています。険しい滝を昇りきった鯉が、たちまち飛竜に変化するという内容の賛ですから、この絵を見て、この絵の内容にふさわしい言葉を選んだものと思われます。

 

この絵は、大正五年(一九一六)に新築された公爵毛利家の本邸、すなわち今の「旧毛利家本邸」完成にあたり、祝いの品として毛利家に献上されたものです。かつては、別の所有者のものだったようですが、応挙の力の入れ具合といい、下級とはいえ公家の伏原宣条が賛をしたためるなど、この絵の発注者はなかなかの実力者だったのでしょう。

 

この堂々とした絵は、作者応挙の著名度や、絵そのもののダイナミックさが好まれたのでしょうか、毛利家でも大切にされ、本邸完成の記念式典や、完成直後の記念アルバム撮影時にも大広間の床の間にかけられました。毛利家にとってはここぞというときの逸品だったようです。