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第135回

2013.03.22

130322_mouriこの写真は、「短冊箱(たんざくばこ)」といいます。和歌などを記す短冊を収める箱のことです。ただ短冊を収納するだけでなく、箱の中にはなかごがしつらえられ、なかごの上に筆・硯・墨・水滴が収められ、実際に短冊に和歌を書くための道具一式がすべて収められています。

 

この「短冊箱」にも、前回同様の文様、黒漆に金の蒔絵で竹を菱形に編んだ竹菱文様、菱形の内には梅、ところどころには毛利家の家紋「沢瀉(おもだか)」が描かれていますから、八重姫の婚礼道具であることがわかります。さすがは大名家の婚礼道具です。箱の内側やなかごの内もすべて金の蒔絵で美しく飾られています。また短冊も紙そのものが色とりどりであるだけでなく、金銀泥で秋の草花や、春の霞など、季節の風物が美しく描かれています。

 

さて、よく見ると気になるのは、この短冊箱、中の筆も硯も墨も、一切使用された形跡がないことです。また写真ではよくわかりませんが、実物をよく眺めると、箱の表面、内側も外側も疵一つついていません。婚礼道具といいながら、全く使用された痕跡がないのです。

 

全国には大名家の婚礼道具を収蔵している博物館がいくつもありますが、どの博物館の収蔵品も、まとまった婚礼道具が残されている場合、実際に使われた形跡は見あたらないようです。つまり、どの婚礼道具も、一切使用せず、すぐ蔵に収納し、そこで幾代にもわたって大切に保存されたと推測されるのです。現在、大名家の遺品として、きれいに残されている家具・文具・化粧道具などの調度類は、そのほとんどが実際に使われた痕跡がありません。まさに飾るだけで、実際には使用しない、いわば非実用の品として作られ、保存されてきたのです。

 

箱の隅々や短冊の一枚一枚にいたるまで、豪華な意匠が凝らされたこれらの道具は、実用の用途ではなく、まさに大名の威信を世に示す、そのためだけに作られたものなのです。