山口県のフリーペーパー「地域情報新聞 ほっぷ」WEB版

お問い合わせはこちら

秦川を望む

2016.09.23

秦川朝望迥

日出正東峯

遠近山河浄

逶迤城闕重

秋声万戸竹

寒色五陵松

客有帰歟歎

悽其霜露濃

 

七三五年頃の李頎(りき)の「秦川(しんせん)を望む」。秦川は渭水(いすい)がある長安一帯の地。

 

■読みと解釈

秦川朝望迥

秦川をば朝に望めば迥(はる)かにして

[秦川の地を朝早く眺めると遥か見渡せ]

 

日出正東峯

日は正東(せいとう)の峯より出ず

[太陽はま東の峯から昇り出る]

 

遠近山河浄

遠近の山河は浄(きよ)く

[遠く近くの山や川は清々しくて]

 

逶迤城闕重

逶迤(いい)として城闕(じょうけつ)は重なる

[宮城は幾重にも重なり連なっている]

 

秋声万戸竹

秋声は万戸の竹に

[秋の風は家々の竹に吹きつけ]

 

寒色五陵松

寒色は五陵の松に

[寒い気配は五陵の松に漂う]

 

客有帰歟歎

客には帰らん歟(か)の歎(なげ)き有り

[旅人にあるのは帰りたい溜め息]

 

悽其霜露濃

悽其(せいき)として霜露は濃やかなればなり

[もの悲しく霜や露がひどくなってくる]

 

 

■注目点

秦川を望む作者の思いに注目。

作者は旅人。旅人の作者が秦川を望む季節は秋、時刻は朝、天候は晴、気配は冷たい。

朝の秦川一帯。眺望は抜群。ま東から出る太陽。手を合わせ礼拝。遠く近くには山と河。晴れた朝。清くすっきり。豪華な宮城の長安城。屋に屋を重ね、数に数を重ねる長安城。

長安城内の家々には限りない竹。秋の風が音をたて吹きつける。五人の帝王の墓守りの松。寒い気配が漂う。

旅人の作者は我に返る。ひどい霜や露の降りる今。移り行く時節。懐郷の念、切なる帰思に駆られ、「帰らんか、帰らんか」の声に誘われ、他郷にある我が身の侘しさが嘆かれる。

旅にある者。何かにつけ、切なる帰思の種となる。種が明であれば明で、暗であれば暗で、切なくなる。切なさが解消されぬ種。旅にある者は溜め息しかない。

 

《PN・帰鳥》