山口県のフリーペーパー「地域情報新聞 ほっぷ」WEB版

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江南の旅情

2016.08.12

楚山不可極

帰路但蕭条

海色晴看雨

江声夜聴潮

剣留南斗近

書寄北風遥

為報空潭橘

無媒寄洛橋

 

七二五年頃生まれの祖詠(そえい)の「江南の旅情」。江南は長江(揚子江)の南。

 

■読みと解釈

楚山不可極

楚山(そざん)は極むべからず

[楚の山々は極め尽くせない]

 

帰路但蕭条

帰路は但(た)だ蕭条(しょうじょう)たり

[帰り道は寂しくてならぬ]

 

海色晴看雨

海色(かいしょく)は晴れて雨を看る

[水面の様はよくよく看ると晴だが雨]

 

江声夜聴潮

江声は夜に潮を聴く

[長江の音は夜によくよく聴くと潮]

 

剣留南斗近

剣は南斗(なんと)に留まりて近く

[刀剣は南斗星近くの江南に留まり]

 

書寄北風遥

書は北風に寄せて遥かなり

[書簡は北風遥か彼方へ送り届ける]

 

為報空潭橘

為に空潭(くうたん)の橘を報ぜんとし

[それが為に寂しい淵にある橘を知らせたく]

 

無媒寄洛橋

洛橋に寄するに媒(なかだち)無し

[洛陽に届けようにも取り次ぎがいない]

 

 

■注目点

旅情の内実に注目。

作者は今、長江南方にいる。そこは旅先。作者の古里はどこ。洛橋。洛陽のこと。

旅先の長江南方から、北方の古里洛陽を思う。ここに旅情がある。

極めることができぬ楚の山々。この山々を越えて来る道はまだしも、帰る道はお手上げ。帰る道を極めぬと、古里へは帰れぬ。

水面、水音。晴だか雨だか、潮騒の響き。共に不安定。不安定は旅情の不安定。

刀剣の主は作者。作者は刀剣を帯び、南斗星(斗に似た星)のある、長江南方にいる。作者は刀剣を使う職にあるのか。時に北風を感じ、北方の古里洛陽を思う。北風に乗せ書簡を届けたくなる。

書簡の代わりに、見向きもされぬ橘を届けたい。だが洛陽に届ける手だてがない。

北方の古里から遠く離れた長江南方で、動きの取れぬ我が身を嘆く作者。帰りたくても帰れぬ旅情。あるのは悲嘆。

 

《PN・帰鳥》