江南にて李亀年に逢う
2017.05.19
岐王宅裏尋常見
崔九堂前幾度聞
正是江南好風景
落花時節又逢君
七一二年生まれの杜甫の「江南にて李亀年(りきねん)に逢う」。江南は長江の南。李亀年は玄宗皇帝に寵愛された名歌手。
■読みと解釈
岐王宅裏尋常見
岐王(ぎおう)の宅裏(たくり)にては尋常に見しに
[岐王の邸宅内ではしょっちゅう会っていたし]
崔九堂前幾度聞
崔九(さいきゅう)の堂前にては幾度(いくたび)か聞けり
[崔九の表座敷では何度も何度も歌を聞いていた]
正是江南好風景
正(まさ)に是(こ)れ江南の好(よ)き風景にして
[今まさに長江南の心地よい風と光の景の中]
落花時節又逢君
落花の時節に又た君に逢えり
[花の散るこの時節またまた君にばったり出会った]
■注目点
李亀年に対する杜甫の思いに注目。
李亀年は絶対の権力を有する玄宗皇帝に寵愛され、首都長安の岐王や崔九の邸宅に出入りしていた名歌手。岐王は玄宗の実弟。崔九は玄宗側近の長官。
杜甫はその李亀年にしょっちゅう会い、何度も何度も歌声を聴いていた。それは昔の話。
ばったり出会った今は長安ではなく、長安からほど遠い長江の南。好き春の風景だが、春の花が散っている。
花が散る。それは春の終わり。李亀年の終わりかも。絶頂から谷底へ。花の散る時節。ここに李亀年に対する杜甫の思いが託されている!
《PN・帰鳥》