山口県のフリーペーパー「地域情報新聞 ほっぷ」WEB版

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旅の夜に懐いを書す

2016.10.07

細草微風岸

危檣独夜舟

星垂平野闊

月湧大江流

名豈文章著

官因老病休

飄飄何所似

天地一沙鷗

 

七一二年生まれの杜甫(とほ)の「旅の夜に懐(おも)いを書す」。

 

■読みと解釈

細草微風岸

細草に微風の岸

[僅かな草にそよ風吹く岸辺]

 

危檣独夜舟

危檣(きしょう)に独夜の舟

[高い帆柱を挙げ独り寝の舟]

 

星垂平野闊

星は垂れ平野は闊(ひろ)く

[星は低く輝き平野は広々しており]

 

月湧大江流

月は湧(わ)き大江は流る

[月は湧き出て大江は揺らめき流れる]

 

名豈文章著

名は豈(あ)に文章もて著われんや

[名声は詩文で知れ渡るものではない]

 

官因老病休

官は老病に因(よ)りて休(や)む

[役人は老いと病いで辞めるほかない]

 

飄飄何所似

飄飄(ひょうひょう)たるは何の似る所ぞ

[風に漂う身は何に似ている]

 

天地一沙鷗

天地の一沙鷗(いちさおう)

[天と地との間をさ迷う一羽の鷗]

 

 

■注目点

旅の夜にどんな思いを書くのかに注目。

杜甫は今、舟の中にいる。独夜だから独り。傍には誰もいない。帆は降ろし、柱だけ高く挙げている。

地上に目をやると、舟を繋ぐ岸辺には、そよ風になびく僅かな草。天空に目をやると、星と月。星は平野に低く垂れて輝き、月は大江から湧き出て流れる。こうした地上と天空の中で、独り夜を過ごす杜甫。どんな思いでいるのだろう。

こうした思いを書きつつ、杜甫は我が身を振り返る。我は詩文を作る人間。何年、何首作った? 誰か認めてくれた? 誰も認めてくれていない? 年を取り病めば、役人仕事はできぬ。辞するだけ。

放浪の旅。漂泊の人生。この人生は鷗の人生。波間に浮かび、波間に没する。これが鷗。

杜甫が我が人生を回顧し、その思いを書した作。思いの中心は、名声は知れ渡らず、辞めてしまう役人。独り寝の旅の舟の中。人生絶望。

 

《PN・帰鳥》