山口県のフリーペーパー「地域情報新聞 ほっぷ」WEB版

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揚子江を渡る

2016.11.18

桂楫中流望

空波両畔明

林開揚子駅

山出潤州城

海尽辺音静

江寒朔吹生

更聞楓葉下

淅瀝度秋声

 

七三〇年頃の丁仙芝(ていせんし)の「揚子江を渡る」。揚子江は長江下流域の川。

 

■読みと解釈

桂楫中流望

桂の楫(かい)にて中流に望めば

[桂の楫を漕ぎ中流で辺りを眺めると]

 

空波両畔明

空波にして両畔(りょうはん)は明らかなり

[波はなく両岸ははっきり見える]

 

林開揚子駅

林は揚子駅に開き

[林は揚子駅で開けており]

 

山出潤州城

山は潤州城(じゅんしゅうじょう)に出ず

[山は潤州城の向こうに出ている]

 

海尽辺音静

海は尽き辺音(へんおん)は静かにして

[海が果てると辺りの音は静かであり]

 

江寒朔吹生

江は寒くして朔吹(さくすい)は生ず

[揚子江は寒く北風が吹き起こる]

 

更聞楓葉下

更に聞くは楓(かえで)の葉の下り

[加えて聞こえてくるのは楓の葉が散り]

 

淅瀝度秋声

淅瀝(せきれき)として秋声の度(わた)るを

[もの寂しく通り過ぎる秋の声]

 

 

■注目点

揚子江から見た風景に注目。

揚子江は長江の一部の名だが、長江全体の名とするのは誤り。

長江が海に入るまでの距離は短い。流域の北岸には宿場の揚子駅があり、南岸には都市の潤州城がある。駅にせよ、城にせよ、人の動きはある。賑やかな景色。

桂製の櫂で自ら舟を漕ぎ、揚子江に出る作者。中流で舟を停め眺める。水面は波はなく穏やか。辺りの景色はくっきり見える。揚子駅辺りで林は姿を消し、潤州城辺りで山が姿を現す。穏やかな景色。

停めていた舟を漕ぎ、下流へと進める。海近くになり辺りは静かだが、寒くなり北風が吹き出した。寒くなるのは北風だけではない。楓の葉がハラハラと散り、秋の気配が響き渡る。冷ややかな景色。

揚子江を渡る作者。季節は秋。景色は穏やかな景から、冷ややかな景へ一変する。景の一変は情の一変なのか。

 

《PN・帰鳥》