山口県のフリーペーパー「地域情報新聞 ほっぷ」WEB版

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墨上にて春遊ぶ

2013.03.29

黄昏転覚薄寒加
載酒又過江上家
十里珠簾二分月
一湾春水満堤花

 

一八七九年生まれの永井荷風(かふう)の「墨上(ぼくじょう)にて春遊ぶ」。墨上は隅田川のほとり。

 

■読みと解釈
黄昏転覚薄寒加
黄昏(こうこん)転(うた)た覚ゆ薄寒の加わるを
[たそがれ時には薄ら寒さがますますひどくなるのが自覚され]

 

載酒又過江上家
酒を載(の)せて又(ま)た江上の家に過(よ)ぎる
[酒を舟に載せてまたまた川のほとりの家に立ち寄る]

 

十里珠簾二分月
十里の珠簾(しゅれん)に二分(にぶん)の月
[十里の間にある珠簾の酒屋に空には明月]

 

一湾春水満堤花
一湾の春水に満堤(まんてい)の花
[湾いっぱいの春の水に土手いっぱいの花]

 

 

■注目点
春遊びの実態に注目。
作者はいま隅田川のほとりの酒屋にいる。そこでの遊びです。
時は春のたそがれ時。薄ら寒さがますますひどくなる時。作者は酒を舟に載せ、酒屋に行きます。又たと言うから、酒屋へ行くのは一度や二度ではない。何度も何度もであろう。
酒屋から見える風景。それは十里間隔にある酒屋。そこには美麗な女給がいるかも。酒屋の上空には明月。隅田川の湾の中は春の穏やかな水。土手には桜の花が満開。
作者はこうした風景を眺めながら、酒を飲み、美女を相手に春遊びを楽しんでいます。憂き世を忘れ、風流に浸る世界です。

 

《PN・帰鳥》