友人が蜀へ行くのを送る
2017.02.03
見説蚕叢路
崎嶇不易行
山従人面起
雲傍馬頭生
芳樹籠秦桟
春流遶蜀城
升沈応已定
不必問君平
七〇一年生まれの李白の「友人が蜀(しょく)へ行くのを送る」。蜀は四川省の地。
■読みと解釈
見説蚕叢路
見説(い)うならく蚕叢(さんそう)の路は
[人の話では蚕叢の蜀への道は]
崎嶇不易行
崎嶇(きく)として行き易(やす)からず
[険しくて容易には行けず]
山従人面起
山は人面従(よ)り起こり
[山は人の顔辺りからそそり立ち]
雲傍馬頭生
雲は馬頭に傍(そ)うて生ずと
[雲は馬の頭辺りから湧き起こると]
芳樹籠秦桟
芳樹は秦桟(しんさん)を籠(こ)め
[花咲く樹は秦のかけ橋を包み込み]
春流遶蜀城
春流は蜀城を遶(めぐ)る
[春の川は蜀の街をぐるり流れる]
升沈応已定
升沈(しょうちん)は応(まさ)に已(すで)に定まるべし
[人生の浮沈はとっくに定まっている]
不必問君平
必ずしも君平(くんぺい)に問わず
[君平に確かめる必要はない]
■注目点
蜀への道程に注目。
蚕叢は昔の蜀王の名。君平は占いの名人。
友人の行く先は蜀。蜀への道程は高低差があり険しい。山は歩行者の鼻先からそそり立ち、雲は乗り物の馬の天辺から湧き起こる。友人よ。蜀へ行くのは容易ではない。道程を承知の上で行き給え。
今は春。道程の樹木には花が咲き、秦の世に築いたかけ橋を包み込み、また春の麗らかな川の水は、蜀の街の外側を清く流れている。樹木の花も、川の水も、友人の来訪を待っているだろう。
蜀への道程は険しいが、行き着くと安らかさが待っている。
人生ってそんなもの。道程は険だが、到着後は安。険を乗り越えて安がある。険か安か。それは前もって定まっている。占いを名人に頼む。それは無駄なこと。
友人を送る李白。人生の険、安は運命。くよくよするな。蜀への旅を励まし、明るく友人を送る李白。
《PN・帰鳥》